横浜地方裁判所 昭和62年(行ウ)16号 判決 1991年9月30日
原告
合資会社渡辺工業所
右代表者無限責任社員
渡辺三三
右訴訟代理人弁護士
平岩敬一
同
関一郎
被告
横浜市鶴見区長
森川裕也
右訴訟代理人弁護士
綿引幹男
主文
一 被告が原告に対して昭和六〇年六月一七日付けでした事業所税の更正のうち納付税額三〇二二万八四八〇円を超える部分及び不申告加算金賦課決定を取り消す。
二 被告変更後の訴訟費用(訴状貼用印紙を含む。)は被告の負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
主文同旨
第二事案の概要
本件は、原告が新築した建物「グランドメゾン鶴見」に対する新増設に係る事業所税につき更正を受けた原告が、被告によって事業所と認定された範囲を争い、更正処分の取消しを求めた事件である。
一本件課税処分等の経緯
原告の新増設に係る事業所税の申告及び被告の本件課税処分等の経緯は、以下のとおりである(争いがない。)。
1 原告は、昭和五八年九月六日付け五八鶴第五一〇号をもって横浜市建築主事より建築確認を受け、同年一一月一四日、横浜市鶴見区鶴見中央二丁目三番一号ほかに、渡辺第二ビル「グランドメゾン鶴見」(以下「本件建物」という。)を新築した。本件建物についての新増設に係る事業所税(以下「本件事業所税」という。)の申告納付期限(以下「申告納付すべき日」という。)は、昭和五九年一月一四日であった(地方税法七〇一条の四八。以下特に記載のない場合、条文は地方税法である。)。
2 原告は、同年一一月二四日、被告に対し、昭和五八年分の本件事業所税につき、三〇二二万八四八〇円を納付税額とする申告書を提出した。原告は、新増設事業所床面積6569.55平方メートルから控除床面積1531.47平方メートルを控除した5038.08平方メートルを本件事業所税の課税標準としたものである。
3 これに対し、被告は、昭和六〇年六月一七日付けで納付税額を六〇一四万四八四〇円と更正し、不申告加算金を二九九万一六〇〇円と決定した(七〇一条の五八第一項、七〇一条の六一第二項二号)。
被告は、原告の新増設事業所床面積を1万1555.61平方メートルと認定し、ここから控除面積1531.47平方メートルを控除した1万0024.14平方メートルを課税標準であるとし、さらに二九九一万六三六〇円の事業所税及びその百分の十の割合を乗じた不申告加算金を課したものである。
4 原告は、同年八月一五日、横浜市長に対し、行政不服審査法の規定により審査請求をしたところ、同年一一月二八日付けで棄却決定がなされ、右決定は、同月二九日原告に通知された。
二本件課税処分の根拠に関する被告の主張
1 本件建物各部分の床面積は次のとおりであり、その内訳等は別表(一)及び(三)のとおりである(争いがない。)。
(一) 事務所・店舗等専用部分6031.29平方メートル
(二) ワンルームタイプ専用部分4297.00平方メートル
(三) ファミリータイプ専用部分5352.48平方メートル
(四) 共用部分 1637.66平方メートル
(1) ワンルーム共用部分 854.15平方メートル
(2) 事務所・ワンルーム共用部分81.02平方メートル
(3) 全体共用部分 702.49平方メートル
(五) 駐車場 45.96平方メートル
(六) その他 231.31平方メートル
2 このうち、本件事業所税の課税対象となる新増設事業所床面積は、合計1万1555.02平方メートルであり、その内訳は次のとおりである。
(一) 本件建物の一階から三階までの全専用部分(事務所・店舗専用部分)の床面積の合計6031.29平方メートル(原告は、この部分を6032.22平方メートルと申告したが、現在は6031.29平方メートルとすることに争いがなく、この部分が新増設事業所床面積に含まれることについても争いがない。)
(二) 本件建物のワンルームタイプ専用部分(四階から一〇階)の床面積合計4297.00平方メートルから別表(二)記載のワンルームタイプ専用部分の床面積合計183.37平方メートルを控除した4113.63平方メートル(別表(二)記載のワンルームタイプ専用部分の床面積合計183.37平方メートルは、ワンルームタイプ専用部分中、申告納付すべき日において、住民登録がされ、住居として使用されていた部分であり、これを控除することについては争いがない。)
(三) 本件建物の共用部分の床面積合計1637.66平方メートルのうち、1364.14平方メートル(七〇一条の三一第一項六号、地方税法施行令五六条の一八第二号、別表(三))
(1) ワンルーム共用部分 817.70平方メートル
(2) 事務所・ワンルーム共用部分79.58平方メートル
(3) 全体共用部分 466.86平方メートル
(四) 駐車場の床面積45.96平方メートル(この部分が新増設事業所床面積に含まれることについては争いがない。)
3 よって、本件事業所税の課税標準は、本件新増設事業所床面積1万1555.02平方メートルから、次の床面積を控除した1万0023.55平方メートルであり、その税額は六〇一四万一三〇〇円(1万0023.55平方メートル×6000円)である(次の面積を控除することについては争いがない。)。
(一) 従前の事業所用家屋1508.49平方メートル(七〇一条の四一第三項)
(二) 附置義務駐車場45.96平方メートルの二分の一である22.98平方メートル(七〇一条の四一第一項二一号)
4 本件の不申告加算金は、{六〇一四万一三〇〇円−三〇二二万八四八〇円(一万円未満切り捨て)}×百分の十=二九九万一〇〇〇円となる。
三原告の認否反論(原告主張の違法事由)
本件建物のワンルームタイプ専用部分の床面積合計4297.00平方メートル中、事業所用建物部分は、原告が本件事業所税の申告をした当時事務所として利用されていた55.20平方メートルだけである。それを超える部分は、居住用建物であって、本件事業所税の課税対象ではない。
四争点
1 本件ワンルームタイプ専用部分が、新増設に係る事業所税の課税対象である事業所用家屋に当たるか否かが争点である。
2 争点に関する被告の主張は、以下のとおりである。
(一) 事業所用家屋と居住用家屋の区別基準
事業所用家屋とは、家屋の全部又は一部で人の居住の用に供するもの以外のものをいい(七〇一条の三一第一項七号)、事業所用家屋であるかどうかは、当該家屋の全部又は一部がその構造、設備等において人の居住の用に供するものと認められるもの以外のものであるかどうかによって判定する(自治省依命通達第一一章三(3)ロ。以下「人の居住の用に供するものと認められるもの」を「居住用家屋」という。)。
「人の居住の用に供する」とは、特定の者が継続して生活の本拠として居住の用に供することである。したがって、その判定にあたっては、当該家屋の構造及び設備の状況、建築主の建築目的等を総合して、特定の者が継続して生活の本拠として利用する目的で建築されたものかどうかを考慮すべきである。
(二) 事業所用家屋か否かの判定の基準日
事業所用家屋であるか否かの判定時は、申告納付すべき日前に申告納付した場合は納付した日、申告納付すべき日以後に申告納付した場合は申告納付すべき日であり、申告納付すべき日以後の使用状況まで判定の資料とすべきではない。
申告納付すべき日以後の現実の申告日を判定の基準日とすると、建築主の自由意思による申告納付すべき日以後の用途変更により、本来納付しなければならない事業所税の納付を免れさせることになる。
(三) 七〇一条の五一の準用について
この規定は、非課税の対象となる用途に使用する目的で新築又は増築した事業所用家屋につき、これを申告納付すべき日までにその非課税の対象となる用途に現実に使用を開始すれば非課税とされるのに、たまたまその使用開始が申告納付すべき日以後に遅れた場合、救済措置として、申告納付すべき日から一年以内にその非課税の対象となる用途に使用を開始すれば事業所税の徴収猶予をし、あるいは免除することができるようにしたものであり、本件について本条を準用する明文も実質的理由もない。
(四) 面積、設備等
ワンルームタイプ専用部分に建築された建物(以下「ワンルームタイプ」ということがある。ファミリータイプ専用部分に建築された建物についても同様に「ファミリータイプ」ということがある。)には、次のような構造上の特徴がある。
(1) ファミリータイプよりも占有面積が狭く(23.51平方メートルから30.76平方メートル)、一部屋から成っている。
(2) 押入れ等の収納スペースがない。
(3) ファミリータイプよりも狭い厨房しかなく、ユニットバスや業務用の温水器が設備されている。
(4) 居住用住戸には不要な非常用照明装置や居住用には設置の免除されている自動火災報知設備が設置されている。
(5) 各室には専用の出入口(居住者等がいつでも通れる廊下に面している。)があり、完全に区画された構造である。
(6) ワンルームタイプ専用部分と、ファミリータイプ専用部分とは相互に出入りできない。
(7) ファミリータイプ専用部分にはコミュニティースペースとしての集会場や中庭(パティオ)がある。ワンルームタイプ専用部分の利用者はこれを直接利用できず、集会場もない。
(8) 浴室、台所、便所、洗面台などが設置されているが、これらは事務所にとって不要なものではなく、事務所の利便性を高めるものである。ワンルームタイプは、居住用として利用するより事務所として利用するほうが利用効率が高い。
(五) 原告の建築目的について
次の事実によれば、原告は、ワンルームタイプ専用部分を事業所用として使用する目的で建築完成させたというべきである。
(1) 建築確認申請の際、本件建物の建築目的につき、ファミリータイプ専用部分を住居用、他は(四階以上のワンルームタイプ専用部分も)事務所用としている。
(2) 本件建物の販売広告にあたり、ワンルームタイプの利用例として小人数のオフィス、個人事務所、カルチャー教室、ヨガ教室などを掲げているのに対し、ファミリータイプは居住用マンションとして広告している。
(3) ワンルームタイプ譲渡の際の土地付区分建物売買契約書や重要事項説明書において、その用途を事務所とし、それを居住の用に供したり、住居用に改造することを禁じ、第三者に転売する場合もこの条件を承継させるべき旨を定めている。
(4) ワンルームタイプの表示登記は、一五六戸中五二戸が居宅であるが、残りは事務所となっている。
(5) 原告は、本件建物の建築にあたり、住居容積率の規制のあることを十分承知しており、この規制に適合するように建物を建築した。すなわち、原告は、昭和五八年七月二二日に建築確認申請を行い、同年九月六日に建築確認を受けたが、本件建物の住居容積率は、205.28パーセントであり、横浜市建築基準条例による三〇〇パーセントの容積率にはまだゆとりがあった。
(6) 原告は、建築主事に対し、ワンルームタイプについては事務所として建築するものであって、完了検査後に住居その他居住用に改造しない旨の念書(<書証番号略>)を差し入れて、ワンルームタイプの建築目的が事務所であることを表示している。
(六) 事業所用家屋か否かの認定が困難な場合
事業所用家屋は、家屋の全部又は一部で、人の居住の用に供するもの「以外のもの」(七〇一条の三一第一項七号)であるから、明らかに居住用家屋と認めることが困難な場合は、事業所用家屋と判断すべきである。したがって、居住の用に供されるものとして建築されていない以上、事業所用として使用が開始されていなくても、居住の用に供するもの以外のものに該当する。
3 被告の主張に対する認否反論及び争点に関する原告の主張は、以下のとおりである。
(一) 事業所用家屋と居住用家屋の区別基準
判定の基準は建築主の主観ではなく、構造、設備という客観面に重点をおくべきであり、その構造、設備等の客観的な状態からして、人の居住の用に供するものと認められるかどうかを判断すべきである。
(二) 事業所用家屋か否かの判定の基準日
判定日は、原則として、申告納付すべき日であるが、居住用か否かの判定が困難な場合には、例外として期限後申告時とすべきである。原告は、権利として認められている期限後申告(七〇一条の四九)をし、右申告時の現実の利用状況により、ワンルームタイプ専用部分の大部分を居住用建物と判定したものである。
「申告納付すべき日以後の現実の申告日を基準とすると、建築主の自由意思による申告納付すべき日以後の用途変更により、本来納付しなければならない事業所税の納付を免れさせることになる。」という被告の主張は、申告納付すべき日までにワンルームタイプ専用部分が事業所用家屋として利用されていたか、又は空屋であっても客観的に事業所用家屋と判定できるものについてならともかく、本件ワンルームタイプ専用部分のように、申告納付すべき日においては九〇パーセント以上が空室であって、居住用にも事業所用にも使用できる多目的建物には妥当しない。被告の見解は、事業所用か居住用かの判定を原則として納税者自身に委ねるという地方税法の趣旨に反する。
(三) 七〇一条の五一の準用について
本条は、申告納付すべき日から一年以内に事業所用家屋を非課税事業所用家屋として使用した場合に免税を認めている。これは、新築・増築後比較的短期間で非課税等判定日が到来することとなるため、その使用が遅れることによって免税等の措置の適用を受けられなくなる不都合を排除しようとする規定である。このように、七〇一条の五一は、本来課税すべきものも一年の猶予期間をおいて非課税とする規定であるから、本来課税されない、そもそも納税義務のない居住用家屋について、申告納付すべき日に居住用か事業所用か判定できない場合には、この規定が当然準用されるべきである。
(四) 面積、設備等
前記2(四)(1)の被告主張事実は認めるが、風呂や専用便所すらないアパートの一室でも居住用と判断されうるのであるから、占有面積が狭小であることは、居住用建物と判断する妨げにならない。しかも、ワンルームタイプは、ビジネスホテルのシングルルームよりは広い面積である。
同(2)は認めるが、押し入れがなくても、ベッド、ファンシーケース(洋服収納ケース)、洋服ダンス等を別に用意して生活でき、居住用としての利用に問題はない。
同(3)は、温水器が業務用であるとする点を除いて認める。ワンルームタイプの各室には厨房、温水器、バルコニーがある点で居住用に適する。
同(4)は認める。
同(5)ないし(7)の構造を認める。しかし、ワンルームタイプは大学生や独身の会社員の居住を想定しているのに対し、ファミリータイプは家族の居住を予定しており、両者は利用者を異にするから、別区画に存在し、互いの出入りや利用ができない構造になっていても、ワンルームタイプ専用部分が居住用でないということにはならない。
同(8)については、事務所として利用するには本来不要な浴室がある点を考慮すべきである。本件建物の一階から三階にある事務室は、床面積は広いが浴室はない。事務所として利用するなら狭小の面積中に浴室を置く必要はないのである。また、台所、便所、洗面台は、ワンルームタイプの各室にあるが、事務所として有効利用するなら共用としたほうがよい。
(五) 原告の建築目的について
(1) 前記2(五)(1)の被告主張事実は認めるが、建築確認における用途は事業所税課税の際の判定要素にならない。すなわち、居住用として建築確認を受けても、事業所としての実体があれば事業所税の課税対象になり、また、新築・増築の日から五年以内に用途変更があった場合には、その用途変更部分が新たに課税対象となるのである(七〇一条の三二第三項)。
(2) 同(2)ないし(4)、及び(6)の念書の差し入れは認めるが、(5)は否認する。
当初、横浜市建築基準条例により、商業地域の住居用建築物等の住居容積率(以下「住居容積率」という。)は、全体の容積率六〇〇パーセントのうち一五〇パーセントに抑えられていたが、原告代表者は、父渡辺忠造所有土地を横浜市に無償譲渡し、その見返りとして住居容積率を二〇〇パーセントまで増加してもらい、昭和五七年四月一二日に最初の建築確認(確認番号五六鶴第一〇二六号)を受けた。この時の本件建物の住居容積率は199.88パーセントであった。
住居容積率は、条例改正により、昭和五八年一月一日から三〇〇パーセントに緩和されたが、本件建物の建築工事は昭和五七年六月一日から開始されており、資材は概ね発注済みで、二階コンクリートが打設中であったため、若干の設計変更をしたのみで、基本的設計変更はできなかった。
そして、昭和五八年七月二二日の建築確認申請は、二度目のものである。すなわち、昭和五七年六月一日の建築着工後、一階及び二階を大型店舗が一括使用することになったため、出入口、階段、廊下等の設計変更をし、建築面積が若干増加したので、二度目の建築確認申請をしたのである。
本件建物の竣工時には、住居容積率は三〇〇パーセントに緩和されていたが、原告は、条例改正前に横浜市に差し入れた念書を根拠に、同市から、二度目の建築確認の際の本件建物の住居容積率205.28パーセントを超えるワンルームタイプ専用部分について、パンフレット、チラシ、重要事項説明書及び売買契約書を作成するについて、居住用として宣伝してはならないとの制限を受けた。
(六) 事業所用家屋か否かの認定が困難な場合
本件建物が居住用にも事業所用にも供しうる形態をとっており、用途において多目的であることから、単に構造設備のみによって事業所用家屋であるか否かの認定が困難なら、申告納付すべき日以後の現実の利用状態を基準にしてこれを判定すべきである。現に被告もワンルームタイプ専用部分の一部について、住民票の存在を基準とし、住民票のある部分を新増設事業所床面積から控除している。
しかし、被告は、住民票の有無を申告納付すべき日を基準として判断し、右時点で住民票のないものは、空室も一律に事業所用と認定しており、この点において誤っている。原告は、権利として認められている期限後申告(七〇一条の四九)をし、右申告時の現実の利用状況により、ワンルームタイプ専用部分を居住用と判定したものである。
(七) 実質課税の原則
新増設に係る事業所税は、事業所用家屋の新築・増築が将来人口の集中を招く要因を作り出し、都市機能の回復という特別な財政需要を誘発することになるため、その原因者である建築主に負担を求めることが妥当であることから課されるものであるところ、ワンルームタイプは、多くが独身者の居住用として利用され、人口集中をきたす要因となっていないから、実質課税の原則からして、これに事業所税を課すのは妥当でない。
第三争点に対する判断
一事業所用家屋と居住用家屋の区別基準及び判断の基準日について
1 事業所用家屋とは、家屋の全部又は一部で人の居住の用に供するもの以外のものをいい(七〇一条の三一第一項七号)、ここに「人の居住の用に供する」とは、特定の者が継続して生活の本拠として居住の用に供することを意味するものと解すべきである。そして、家屋の全部又は一部が人の居住の用に供するものであるか否かは、当該家屋の全部又は一部の構造及び設備の状況のほか、建築主の建築目的、建物全体の地理的条件等も総合して、特定の者が継続して生活の本拠として居住するためのものといえるかどうかによって判定すべきであり、それが居住用にも事業所用にも利用できる構造、設備等を備える場合においては、いずれを主たる目的としているかによって判断すべきである。
この判断は、新増設に係る事業所税の申告納付すべき日における当該家屋の現況をもってなされるべきであり、申告納付すべき日は、事業所用家屋の新築又は増築をした日から二月後の日である(七〇一条の四八)。そして、期限後申告ができる場合(七〇一条の四九)であっても、それによって申告納付すべき日が現実に申告した日に変更されるわけではないから、期限後申告によって、判断の基準日が変更されることはないというべきである。
2 本件における申告納付すべき日は、昭和五九年一月一四日である(争いがない。)。
二本件建物及びワンルームタイプの構造、設備等について
1 前記当事者間に争いのない事実、<書証番号略>、証人深野幸雄の証言並びに弁論の全趣旨によれば、本件建物及びワンルームタイプの構造、設備等は以下のとおりである。
(一) 本件建物は、JR鶴見駅及び京浜鶴見駅に近い、横浜市鶴見区鶴見中央二丁目三番一号及び同一一号に位置する、地下一階地上一〇階建てのビルである。一階から三階は事務所・店舗、四階から一〇階の西南側はファミリータイプ専用部分、同じく北東側はワンルームタイプ専用部分となっている。各部分の面積は、別表(一)及び同(三)のとおりである。
(二) ワンルームタイプは一五六室あり、各部屋は、23.51ないし30.76平方メートルである。ワンルームタイプには、押し入れ等の収納スペースはないが、厨房(ファミリータイプのそれより狭い)、ユニットバス、温水器、非常用照明装置、自動火災報知設備、下足入(タイプ9を除く。)が設置され、床は玄関を除いてカーペットが敷かれている。
(三) ファミリータイプ専用部分とワンルームタイプ専用部分とは、本件家屋内において相互に出入りできない。
四階のファミリータイプ専用部分には集会場及び中庭(パティオ)があるが、ワンルームタイプ専用部分の使用者はこれを直接利用できない。ワンルームタイプの存在する部分にはこのような集会場はない。
2 そこで検討するに、ユニットバスは、通常、人が住居として利用する家屋に設置されるものであり、旅館、ホテルなど人の宿泊を業とするような特別な場合を除いては、事業所用家屋に設置されることはむしろ異例である。また、下足入があり、玄関を除く床にカーペットが敷かれていることから、靴を脱いで上がることが前提となっており、住居として利用する方が普通の使い方といえる。
これに対し、部屋の面積が狭いこと、厨房がファミリータイプに設置されたものより狭いこと、温水器、非常用照明装置及び自動火災報知設備が設置されていることなどから、直ちにワンルームタイプ専用部分が事業所用家屋であるということはできない。むしろ、通常の事務所なら、給湯室を別に造るタイプが多く(証人深野)、温水器は、事務所として使うのであれば、より小さいものでもよい(証人紋田隆)。
さらに、本件建物のワンルームタイプは、四階から一〇階までの一五六室、面積にして4297.00平方メートルを占めているが、本件建物が鶴見駅から近い距離にあるとしても、ひとつの建物内に集中したこれだけのワンルームタイプ専用部分を、すべて事業所用として利用することを可能にするだけの需要があるとは認められない。
したがって、本件建物及びワンルームタイプの構造からすれば、これを居住用建物とみることがむしろ適当であるというべきである。
三原告の建築目的について
1(一) 次の事実は、当事者間に争いがない。
原告は、建築確認申請の際、本件建物の建築目的を、ファミリータイプ専用部分は住居用、他は四階以上のワンルームタイプ専用部分も含めて事業所用としており、ワンルームタイプの表示登記は、一五六戸中五二戸が居宅、残りは事務所となっている。また、原告は、建築主事に対し、ワンルームタイプについては事務所として建築するものであって、完了検査後に住居その他居住用に改造しない旨の念書(<書証番号略>)を差し入れている。
さらに、原告は、本件建物の販売広告にあたり、ワンルームタイプの利用例として少人数のオフィス、個人事務所、カルチャー教室、ヨガ教室などを掲げているのに対し、ファミリータイプは居住用マンションとして広告しており、ワンルームタイプ譲渡の際の土地付区分建物売買契約書や重要事項説明書において、その用途を事務所とし、それを居住の用に供したり、住居用に改造することを禁じ、第三者に転売する場合もこの条件を承継させるべき旨を定めている。
原告は、昭和五八年九月六日建築確認を受けたが、その際、本件建物の住居容積率は205.28パーセントであり、当時の横浜市建築基準条例による三〇〇パーセントの容積率にはまだゆとりがあった。
(二) ワンルームタイプの販売にあたっては、念書(<書証番号略>)記載の制限事項が記載された重要事項説明書(<書証番号略>)に基づいた説明がなされ、同様の記載のある売買契約書・管理規約等(<書証番号略>)が利用されて、事業所として販売が行われた(証人紋田)。
(三) 右事実によれば、原告が、様々の場面で、ワンルームタイプ専用部分を事業所用と表示し、また事業所として販売したことは明らかである。
2 しかし、他方において、次の事実が認められる。
(一) 本件建物の建築にあたっては、居住用のマンションのほうが分譲しやすいという事情から、建物の七割か八割くらいを居住用のマンション部分にあて、残りの一、二階部分を事務所ないし店舗にしたいという希望をもって計画が進められていた(証人深野)。ところが、原告が本件建物について一回目の建築確認申請を行った昭和五六年当時、本件建物周辺の住居容積率は、横浜市建築基準条例により、全体の容積率六〇〇パーセントのうち一五〇パーセントとされていた(争いがない。)。そこで、居住用の家族用マンションであるファミリータイプをできるだけ多く建築できるようにするため、渡辺和三及び原告代表者は、昭和五七年二月二三日付けで横浜市と協定書を取り交し、原告代表者が横浜市建築基準条例四条の三に基づく住居用建築物等の容積率の割増にかかわる許可を伴う建築計画を行うに当たり、渡辺和三が当該建築計画予定地以外の土地を横浜市に対し無償かつ無条件で譲渡する旨の協定を結び、住居容積率を二〇〇パーセントまで緩和してもらい(<書証番号略>、証人深野、同紋田)、また、横浜市からの要請により、同年三月九日付けで、原告代表者が建築主事に対し、ワンルームタイプについて住居その他の居住用に改造しないこと等を誓約する旨の念書を差し入れ(<書証番号略>、証人深野)、同年四月一二日、本件建物の住居容積率を199.88パーセントとして建築確認(確認番号五六鶴第一〇二六号)を受けた(争いがない。)。
原告代表者は、土地を横浜市に無償で提供することに不満を持っていたが、ファミリータイプのマンションが増えるから協力してほしい旨の説得を受け、これに応じた(証人深野)。
(二) 昭和五八年一月一日以降、住居容積率は、三〇〇パーセントまで緩和された(争いがない。)。原告は、住居容積率が緩和された後である同年七月二二日、本件建物の住居容積率を205.28パーセントとして再び建築確認申請を行い、同年九月六日、建築確認(確認番号五八鶴第五一〇号)を受けたものである(争いがない。)が、これは、当初三階まで大きな事務所として設計してあったのにテナントの見込みがなく、そのかわり店舗のテナントがあったので、一、二階を店舗として設計変更したことに伴い、建築確認を取り直したものである(証人紋田)。本件建物の工事は、昭和五七年六月初めに開始されており、また、本件建物の建築計画からも大分経過しており、この時点での設計変更にはさらに費用と時間を要し、工期の延長も生じかねなかったので、ファミリータイプの増加は、事実上無理であった(証人深野、同紋田)。
住居容積率が三〇〇パーセントまで緩和されたので、本件建物の建築計画に関与していた深野幸雄は、横浜市に無償譲渡した土地を返してもらうべく交渉したが、協定書によって契約が成立したので返還は無理であり、また、行政用財産として使用しているから買戻しもできないとしてこれを拒否された(証人深野)。
(三) ワンルームタイプ専用部分も住居用と考えていたため、狭いスペースに風呂場、トイレ、キッチンなどを設けたが(証人深野)、事業所用としても居住用としても利用できるように設計した(証人紋田)。
(四) 本件建物を販売するためのパンフレット及び重要事項説明書を作成するにあたって、念書(<書証番号略>)に記載されていることを遵守する旨の指導がされた(証人紋田)。
(五) 申告納付すべき日(昭和五九年一月一四日)におけるワンルームタイプ専用部分は、七戸183.37平方メートルが居住用として利用され、それ以外は住居用として使用されていなかった(争いがない。)。
その後ワンルームタイプ専用部分の利用状況は、住民登録のみをしているもの一八戸、用途を居宅として賃貸借契約が締結されているだけのもの四一戸、賃貸借契約と住民登録の双方がなされているもの五八戸、事務所として賃貸借契約が締結されているが、住民登録もされているもの一戸、事務所として賃貸借契約が締結されているだけのもの五戸、いずれもなされていないもの三一戸である(<書証番号略>、弁論の全趣旨)。
3 以上の事実によれば、原告は、ワンルームタイプ専用部分につき、建築確認から販売に至るまで、その建築目的ないし用途を事業所用等と表示しており、これを居住用と表示したことはないのであるが、他方において、原告は、本件建物の建築にあたり、居住用のファミリータイプ専用部分をできるだけ多くとりたいと考えており、そのために土地を横浜市に提供して住居容積率を緩和してもらい、その範囲内で最大限のファミリータイプ専用部分を建築しようとしていたこと、その後、条例の改正によって住居容積率が緩和されたが、右住居容積率の変更は本件建物の建築途中でなされたため、その時点ではもはや設計変更等によりファミリータイプ専用部分を増加させることはできず、結果的にファミリータイプ専用部分の容積率205.28パーセントは、現行の住居容積率三〇〇パーセントに比較して低いものになったこと、本件建物のワンルームタイプ専用部分の現実の利用状況をみると、事務所として利用されている部分が極めて少ないこと、本件建物の広告や売買契約書等においてワンルームタイプを居住用と表示していないのは、最初の建築確認を得る際に提出した念書(<書証番号略>)基づく市側の指導があったことが大きな原因であること、本件建物には一五六室のワンルームタイプがあるが、これだけの数の事務所の需要が見込まれる状況があるとは認められないことなどの事情を考えれば、原告は、ワンルームタイプ専用部分についても、できるだけ多くの部分を居住用として建築したいという希望ないし意図を持っていたというべきである。
四建物が事業所税の対象となる事業所用家屋であることの立証責任は課税者である被告の側にあり、事業所用家屋とは、家屋の全部又は一部で人の居住の用に供するもの以外のものをいうのであるから、被告は、ワンルームタイプ専用部分が居住の用に供するもの以外のものであることを立証しなければならないところ、本件建物及びワンルームタイプ専用部分の構造、設備等並びに原告の建築目的に照らせば、ワンルームタイプ専用部分が人の居住の用に供するものであることが十分考えられる本件においては、当該部分が居住の用に供するもの以外のものであることにつき、立証に成功したということは困難である。したがって、本件においては、原告が事業所用建物と認めている55.20平方メートルの部分はともかく、その余のワンルームタイプ専用部分については、これを事業所用家屋であるということはできない(なお、この結果、本件建物の住居容積率につき、横浜市建築基準条例違反の問題を生ずる虞があるが、このことは、本件の結論を左右するものではない。)。
よって、被告が昭和六〇年六月一七日付けで原告に対してなした事業所税更正処分は、事業所用家屋の面積を過大に認定した違法なものである。
第四課税根拠
一新増設事業所床面積 6450.98平方メートル
ワンルームタイプ専用部分4297.00平方メートル中、少なくとも4241.80平方メートル(4297.00平方メートル―55.20平方メートル)を事業所用家屋と認めることができないので、本件建物の新増設事業所床面積は6450.98平方メートルとなる。その内訳は次のとおりである。
1 事務所・店舗専用部分 6031.29平方メートル(争いがない。)
2 ワンルームタイプ専用部分 55.20平方メートル(原告が自認する部分)
3 共用部分 1637.66平方メートル中318.53平方メートル(地方税法施行令五六条の一八第二号による按分計算)
(一) ワンルーム共用部分について 10.97平方メートル
845.15平方メートル(ワンルーム共用部分の床面積)×55.20平方メートル(ワンルームタイプ専用部分の事業所床面積)÷4297.00平方メートル(ワンルームタイプ専用部分の床面積)=10.97平方メートル
(二) 事務所・ワンルーム共用部分について 47.75平方メートル
81.02平方メートル(事務所・ワンルーム共用部分の床面積)×{6031.29平方メートル(事務所・店舗専用部分の事業所床面積)+55.20平方メートル(ワンルームタイプ専用部分の事業所床面積)}÷{6031.29平方メートル(事務所・店舗部分の床面積)+4297.00平方メートル(ワンルームタイプ専用部分の床面積)}=47.75平方メートル
(三) 全体共用部分について 259.81平方メートル
702.49平方メートル(全体共用部分の床面積)×{6031.29平方メートル(事務所・店舗専用部分の事業所床面積)+55.20平方メートル(ワンルームタイプ専用部分の事業所床面積)+0平方メートル(ファミリータイプ専用部分の事業所床面積)+10.97平方メートル(ワンルーム共用部分の事業所床面積)+47.75平方メートル(事務所・ワンルーム共用部分の事業所床面積)}÷{6031.29平方メートル(事務所・店舗部分の床面積)+4297.00平方メートル(ワンルームタイプ専用部分の床面積)+5352.48平方メートル(ファミリータイプ専用部分の床面積)+854.15平方メートル(ワンルーム共用部分の床面積)+81.02平方メートル(事務所・ワンルーム共用部分の床面積)}=259.81平方メートル
4 駐車場 45.96平方メートル(争いがない。)
二控除床面積 1531.47平方メートル(争いがない。)
1 従前の事業所用家屋1508.49平方メートル(七〇一条の四一第三項)
2 附置義務駐車場45.96平方メートルの二分の一である22.98平方メートル(七〇一条の四一第一項二一号)
三課税標準 4919.51平方メートル
6450.98平方メートル−1531.47平方メートル=4919.51平方メートル(一―二)
四本件事業所税額 二九五一万七〇六〇円
4919.51平方メートル×6000円=2951万7060円(七〇一条の四二第二項)
第五結論
以上によれば、被告の昭和六〇年六月一七日付けの事業所税の更正は、事業所税額を過大に認定したものであり、同更正及び不申告加算金賦課決定は違法であって、原告の申告額を超える部分については取消しを免れず、原告の請求は理由がある。
(裁判長裁判官佐久間重吉 裁判官辻次郎 裁判官伊藤敏孝)